今年の3月、夜中に、ぼんやりテレビを見ていたら、「私は訳あり成功者~暴走族から絵本作家へ」という番組をやっていたので、「絵本」という言葉に惹かれて見てみた。見ているうちに私は胸糞悪くなって、だんだん腹がたってきた。

描いた絵本が大ヒットして23才でキャッシュで家を建てたとか、大ヒットする絵本の書き方とか、得々と述べてるんだけど、子どもの成長に資する絵本を作ろうということよりも、いかに売れる絵本を作るかということに汲々としているなあという印象。
 「テキストは3分半から5分で終わらないと子どもが飽きちゃう」んだと。
 そうかあ?飽きちゃうのは詰まらないからじゃない?ここでも、この作家が子どもをなめてるのがよくわかる。
「ひとまねこざる」なんか10分以上かかるけれど、5才児だって最後までよく聞いてくれますよ。(あ、ただ同じ岩波から出ているH・A・レイ原作って書いてある「おさるのジョージ」シリーズはおすすめできません。あれは本当のジョージじゃないですから。)
そして問題の絵本、「ママがおばけになっちゃった」の内容ですが、お母さんが突然、交通事故で死んでしまったので、幽霊になって残された4歳の子どもに会いに来る。その時の子どもとのやり取りが描かれているんだけど(ここで、詳しく内容を書くのもいやなので、内容が知りたい人は「絵本なび」で無料で読めますからそこで見てください。)
人の死をあんなに軽々しく、扱っていいのか、読んでて違和感と嫌悪感しかない。でも、アマゾンのレビューを見ると、400以上のレビューがついてる!絵本でこんなにたくさんのレビューが付くことはまずないから、すごい反響だし読まれているということ。
 くだらない、受け狙いだけの絵本なんてごまんとあるから、それはあまりショックでもなかった。私が一番ショックだったのは、こんな底の浅い、品性下劣な絵本で泣ける人が、感動する人がこんなにいるんだ!という現実に愕然としたのです。
ただ、ちょっと救われたのが星1つが89もあったこと。
大体は自分が選んだのではなく、人からプレゼントされたとか、評判だから本屋で見つけて立ち読みしてその内容に愕然としたなどという方が多いよう。
幼い子どもを残して亡くなるというシチュエーションはやはり、母親にはつらい事だから、ぐっとくるのかもしれません。事実、星ひとつの方でも、その場面では涙が出たと。
でも、でも私は全然泣けなかった。全く感情移入できなかった。なんでだろ、いつもは涙腺ゆるいのに。
ひとつ言えることは、この絵本には人生の真実がひとつもないから。この人は大切な人を亡くすということがどんなことか経験したことがないのか、あるいは人の死というものを深く考えたことがないのか、死というものを頭の端っこでころころころがして思いついたことをかいてるみたい。
哲学とまではいかなくとも、人の死を扱うなら、きちんと調べて自分自身の心に落とし込んでから描いてもらいたい!相手が子どもだからといい加減なこと言ってごまかさないでほしい。
この本を出している大手出版社(K談社)の編集担当者もテレビにでていたけど、「あんたプロでしょ?こんな絵本だしていいの?」ってテレビに向かってつっこんでましたよ。本当はいい編集者が新人を育てるのに、どうみても、子どものためではなく、売れるか売れないか、できめてるような、きっとこの人もこんなの一時的に売れるだけってわかってて、売れなくなったら、切り捨てればいいや、ぐらいに思ってるんだろうな。いい絵本作家を育てていこうなんて気はさらさらない感じだった。
あんまり頭にきたので、私のまわりにいるお母さん方はどう思っているのだろうと、ちょうど小学校の読み聞かせをしているお母さん方との勉強会があったので、「ママが~」を用意してもらって、読み聞かせしてから、意見を言い合ったのですが、ひとりのお母さんがしぼりだすように「私は3歳で母を亡くしました。この絵本は死を茶化してして・・・許せません」とおっしゃったのです。それから、いろいろご意見を伺いましたが、皆さん、自分の子どもには読ませたくないというご意見でした。でも、会が終わってから、おずおずと私のところにいらした方が、「あの、OOさんが読んでくださった時、私涙がでてしまったんですけど、だめでしょうか?」と聞いてきたんです。
それを聞いて私はため息がでました。「どうして、それを話し合ってる時に言ってくださらなかったの?そしたら、話し合いがもっと深まったのに。」というと、「そんなこと、とてもいえませんよ。」と、鼻の先で手を振るのです。私は「母親が、幼い子どもを残して死んでいかなければならない、そんなシチュエーションですもの、涙が出てもぜんぜんおかしくありませんよ。でも、これは子どもに手渡す本ではありません。」といいました。
こうして、みんなで、話し合っても、この絵本が子どもにとってふさわしくないということが感じ取れない人もいるということに、本当になにかもどかしいものを感じていました。
そこで、子ども文庫の会のAさんの「くらべ読みの会」でこの本を取り上げていただきました。それは次回に書きます。